ブログの抜け殻

コロんでコロんでコロなりました

上(じょう)は来ず。

落語「居残り佐平次」の冒頭に、こんなくだりがある:

「上(じょう)は来ず、中(ちゅう)は昼来て昼帰り、下(げ)は夜来て朝帰り、そのまた下は居続けをし、そのまた下下(げげ)は居残りをする」

文明開化前後の頃のおもてなしワンターランドで遊ぶ客の格付けである。 この格付けは、観光やエンターテインメントといった今日のおもてなし産業にもじゅうぶん当てはまりそうだ。

 上客は、例えば、ふるさと納税や、通販を通して、地元の物産を購入する人。 地元に来ずにクレジットカードでカネだけ払ってくれるから、ゴミも落とさないし、道で飲み騒いだ挙句にゲロ吐いて道を汚すこともない。 物理的に存在せずにカネだけ払い、地元経済を潤すうえに、地元住民に迷惑をかけない、最高のお客さんだ。

 中客は、地元にやってくるが、さっさと楽しんで、パッとカネを払って、さっさと帰る。 時間あたりの支払金額が大きいうえに、リムジンをチャーターするなど高額サービスを利用したり、短い滞在期間を大いに楽しむため高級レストランで羽振りよく食事したりと、時間をカネで買う傾向があるので、儲かる客である。 俗に「ツーリストトラップ」と呼ばれる観光名所しか行かず、地元の公共交通を使わないので、地元住民の生活が影響されることが少ない。

 下客は、地元にやってきて、長い間その地にとどまって楽しんで、カネは払って帰っていくには帰っていくが、分母(時間)が大きくなるから、時間あたりでは儲からない客である。 それなりに長期間とどまるために、安い公共交通を使ったり、地元の人が行く安い食堂でご飯を済ませたり、地元の人が行くスーパーで買い出しをしたりするため、地元に落とすお金が少ないうえに、地元住民の生活シーンに侵入してくる。 公共の場所での地元の常識的な振る舞い方を知らないから、地元住民への迷惑行為が増えるし、怪我や病気でもしようものなら、放っておくわけにもいかないから、地元の病院が引き受けることになり、地元の人たちのためのインフラを疲弊させる。

 そのまた下の客は、いつになっても帰らない。 一体どこに泊まっているのかもわからず、コンビニで買った食べ物を食べながら街中を歩き回り、公共の場所でヒマをつぶしたりするので、儲からないばかりか、ゴミを落としたり公衆トイレで洗面をしたりと、地元の住民の生活エリアにも平気で入ってきて、公園のベンチにずっと座って地元の子どもたちが遊ぶのをじーっと見て時間をつぶしたり、夜は夜で公園で飲んだくれて道端にゲロしたり、コンビニ袋に入れたゴミを平気で道に捨てたりする。 地元にほとんどお金を落とさないうえに、町が汚れ、子どもの遊び場が奪われ、地元住民の治安への不安を高めるなど、地元住民への迷惑がさらに増大する。

そのまた下の、最低ランクの客は、「居残り」だ。地元に居続けて、宿の勘定を先延ばしにしながら遊びたい放題遊んだあげく、いざお勘定になると「金が無い」と開き直り、そのまま地元で働いて勘定を返すならまだしも、腕っぷしに任せて正しく善良な地元の人々を威嚇したり金品をダマし盗ったりしてトンズラしてしまう。 こういう輩たちが、つぎの居残り客相手に闇営業を始めると、怪しい集団が地元に居座るようになり、地元の風紀は乱れ、美観は損なわれ、治安が悪化する。 つまり、その土地の価値が、著しく損なわれる。

落語「居残り佐平次」の冒頭のくだりをもういちど: 

「上(じょう)は来ず、中(ちゅう)は昼来て昼帰り、下(げ)は夜来て朝帰り、そのまた下は居続けをし、そのまた下下(げげ)は居残り。」

自ら最高と自負する「おもてなし」をする際は、最高の「おもてなし」に見合う客かどうかを厳しく見極めないと、地元のコストのダダ漏れになるばかりか、下下(げげ)客たちにカモられ続ける上にナメられ続けるばかりである。

 

ぼんやりぶろぐ